現在最も広く行なわれている毛包単位移植術を例にとって、最新の遊離植毛手術について詳しく述べましょう。人の毛髪は、1~3個の毛包が一群となっています。毛包単位移植術とは、毛包のグループをユニットと考え、主に頭頂部から切り取った頭皮組織を、顕微鏡で見ながらさらに毛包単位に切り分けて移植する手術です。
毛包の移植は、移植箇所にあらかじめ穴を開けて埋め込む形で行なわれます。イメージとしては、苗床で育てた稲を、1本ずつ分けて田んぼに植え込んでいく感じ、と考えてください。一般に、生え際には1本毛、頭頂部に近いところには3本毛を1ユニットとして移植されているようです。
移植を行なう時点で毛包の損傷が少なければ、90%以上が新しい場所に定着します。医学用語ではこれを「生着」と言いますが、生着した毛包の大半はすでにヘアサイクルの休止期に入ります。つまり、移植した髪の毛は一度抜け落ちて、また生えてくるのです。
移植後も脱落せず、そのまま成長期を保って伸びる髪の割合はおよそ10パーセント。抜けた髪が再び成長して頭皮の表面にでてくるのは4~5ヶ月後ですから、植毛の効果がはっきり分かるまでに半年以上かかることになります。
さて、ここで疑問をもたれた方はいませんか?頭頂部と前頭部に移植した毛髪も、ジヒドロテストステロン(DHT)の影響を受けない後頭部の毛包は、どこに移植されようと硬いままの毛を保つことができるのです。ちなみにこれを、「ドナー・ドミノンの法則」と言います。移植後30年を経過しても、この法則によって移植毛が保たれている例も報告されています。
また、毛包単位移植ではごく自然な生え際や髪型が実現できる利点もあります。ただし、移植毛以外の頭頂部や前頭部の毛髪は、しだいに細くなったり抜けたりしてきますから、毛包単位移植術も何回かくり返す必要が生じるかもしれません。
たとえば、成人式を迎えた頃はもう髪が薄くなっていたという方は、20代でその部分に植毛しても、その後進行して植毛部分の周辺が薄くなってくると、かえって不自然な状態になって目立ちます。若い時期から脱毛がハイスピードで進む方は、フィナステリドの服用と、植毛手術を併用すると効果的です。
脱毛が進行した状態で植毛手術を受ける場合は、一般に2回か3回手術すれば、かなり回復できます。術後は、毛穴にブドウ球菌が感染して毛嚢炎が起きたり、毛包や表皮成分が皮下で増殖して表皮嚢腫ができるなどのリスクも多少ありますが、薬剤では治療不可能な脱毛症に悩む方には、効果的な方法と言えるでしょう。
植毛手術の費用は移植する本数にもよりますが、100万~150万円ぐらいかかります。しかし、これで一生抜け毛を気にしなくてすむことから「高くない」と感じる人も多いようです。若さを求めて女性がエステに多大な金額を投じるように、「男のエステ」と思えば、たしかにそう高くないとも言えます。
フィナステリド内服治療に比べても、トータルの治療費はそう変わりません。フィナステリドは保険適用外ですから、診察料などを加えると、1ヶ月で1万円ほどかかります。1年飲み続ければ10万円から12万円。45歳から服用を始めて65歳までつづけるとしたら150万円を超しますから、価格的には植毛手術といい勝負です。
1990年代から、人工毛植毛に代わって自毛植毛手術の技術が進み、これを受ける患者さんが増えてきました。自毛植毛とは、脱毛しにくい後頭部や側頭部の皮膚を利用する移植法ですが、大きく分けると以下のような3つの方法があります。
●皮弁法(フラップ法)
側頭部と後頭部の皮膚を4センチ×25センチ程度の長方形に切り、皮膚と毛髪を大量に移植させる方法です。長方形に切る際、短辺の片側だけはつなげたままにして、細長い頭皮をよじるようして脱毛箇所に移動させます。移植する部分を全部切り取らず、1辺をつなげたままにしておくのは、動静脈ごと移植して血液の流れを保つためです。70年代に開発された皮弁法は、90年代半ばまで改良を重ねながら行なわれていましたが、現在はほとんど行なわれていません。動脈や静脈をつなげたまま移植するとはいえ、移植する皮膚が大きいため、血液や酸素の供給不足で壊死する危険性があります。手術を担当する医師側から見ても、大掛かりな手術で技術の習得もむずかしいため、しだいに行なわれなくなったのです。
●縮小術(スカルプリダクション)
縮小術という名の通り、脱毛してしまった部分の皮膚を切り取った後、その周辺の皮膚を引っ張って縫い合わせることで、脱毛部分の面積を減らす方法です。先の皮弁法が一度で済むのに対し、一般に縮小術は何度かくり返し行なわれます。ただしこの方法も、カバーできる面積が限られることや縫合箇所の傷跡が目立ってくるなどの問題点があり、皮弁法同様、近年はあまり行なわれなくなっています。
●遊離移植法
後頭部や側頭部の毛の残っている皮膚を抜け毛が目立つ場所に移植する方法を総称して、遊離移植法と呼びます。初期のパンチグラフト法では後頭部や側頭部から文字通りパンチで穴を開けるようにグラフト(移植片)を円形で採取し、そのまま移植していました。しかし、初期の方法では仕上がりが不自然になるため、いまはグラフトのサイズが格段に小さくなっています。
従来の外用育毛剤に加え、飲んで治す薬フィナステリド(プロペシア)が発売されたことで、脱毛治療の可能性は格段に広がりました。しかし、これらの薬剤による治療では、自分が思ったような効果が得られない患者さんもいます。フィナステリド(プロペシア)も、すべての男性型脱毛症に効くわけではないのです。「薬による治療では満足できなかった」「薬で除々に育毛するのではなく、一気に毛を増やしたい」「薬の効果が表れるまで、他の方法で薄毛をカバーしたい」という方のために、他の薄毛解消法を紹介しましょう。
まず、10年ほど前から日本でも盛んに行われるようになってきた植毛手術です。薄毛の治療法として植毛手術が始まったのは、1960年代のことでした。アメリカ人医師N・オーレントライヒが1959年に発表した植毛術・パンチグラフト法が、60年代以降、世界中に普及していったのです。
このため、植毛術の生みの親はアメリカ人と思われていましたが、70年代になってから、パンチグラフト法を最初に考案したのは日本人の奥田庄二医師であることが世界に知られました。奥田医師は動物実験を経てパンチグラフト法を確立し、火傷で頭髪を失った患者さんにこの手術を施して論文を発表していたのです。それが1939年のこと。オーレントライヒ医師の発表より20年も前でしたが、論文が掲載されたのは日本の医学雑誌だったため、長い間埋もれていたのでした。
では、このパンチグラフト法とはどんな方法なのかと言うと、後頭部や側頭部など脱毛していない部分の皮膚を円柱状に切除して、脱毛箇所に移植する手術法。現在、もっとも進化した植毛法として一般に行われている毛包単位移植法も、奥田医師が編みだしたパンチグラフト法に改良を重ねたものです。
年配の方は、植毛と言うと「人工の毛髪を頭に埋める」というイメージをおもちかもしれません。しかし、人工毛植毛が盛んに行われていたのは1980年代までのことで、アメリカではすでに人工植毛手術は「禁止」されています。術後、頭皮に炎症が起きたり、異物性肉芽腫と呼ばれる硬い瘢痕ができるなどの問題があるからです。日本ではまだ人工植毛手術も行われていますが、いま説明したようなリスクがあることを頭に入れておいてください。
1990年代からは、人工毛植毛に代わって自毛植毛手術の技術が進み、これを受ける患者さんが増えてきました。自毛植毛とは、脱毛しにくい後頭部や側頭部の皮膚を利用する移植法ですが、大きく分けると以下のような3つの方法が行われています。
・皮弁法(フラップ法)
・縮小術(スカルプリダクション)
・遊離移植法
育毛剤、発毛剤の区別がよく分からないように、育毛サロン、発毛サロン、増毛サロンの定義もあいまいです。科学に基づいた診断や治療を行なう病院とは違い、それぞれの業者が独自の育毛剤を販売をしたり、マッサージなどの施術を行なっているからです。
しかし、まだ男性型脱毛症のメカニズムが不明で、これを診る皮膚科医も少なかった数年前まで、薄毛が気なる人はこうしたサロンを頼りがちでした。
その結果、抜けた頭髪が回復するどころか、頭皮まで傷めたり、不当に高い料金を払わされた人が数多くでてしまいました。消費者の生活相談を受けつけている「国民生活センター」にも、育毛うや発毛効果を謳うサービス業者への苦情が多数寄せられています。
国民生活センターが「育毛サービス」という調査項目を設けたのは2000年からで、この年には723件の相談が寄せられました。つづく2001年度の相談件数は699件です。
その相談内容から同センターがまとめた「育毛サービス」の問題点は、以下のようなものでした。
●医学的根拠が定かではないのに、「○○脱毛症」などと診断する。
●「必ず髪の毛が生えてくる」、「必ずもとのようになる」などの文句で、不適切な勧誘をする。
●ヘアケア商品を次々と勧められ、高額な契約になるケースがある。
●6ヶ月など長期間の契約を途中で解約しようとしても、返品、返金を認められないケースがある。
相談者の年代を見てみると、2001年度の699人のうち、20代が352人ともっとも多く、次いで30代の174人、40代の65人となっています。男性型脱毛症の患者さんは、他人の目、とくに「女性の目が気になる」という人が多いのです。
20代、30代の若者なら、こうした気持ちは中年以降の患者さんより強いかもしれません。そんな心情を利用するかのように、「育毛」「発毛」の文句を餌に高額を取るサービス業者も少なくないようです。
20歳の相談者のケースでは、最初のカウンセリングで抜け毛の原因を特定され、「治る」と断定されて総額50万円のヘアケアコースを契約しました。しかし、契約時に購入したヘアケア商品を使うと頭に刺激を感じ、頭皮が真っ赤になり、サービス業者にそれを訴えると「それは血行障害だから」とマッサージ器の購入を勧められたそうです。
また、これも20歳代の方のケースですが、やはり「確実に治る」と説明されて165万円のコースを分割払いで受けることにしました。しかし、2回サービスを受けたところで解約を申し込むと、違約金として30万円の支払いを請求されたそうです。
育毛サービスと業種が似ているエステティックサービスには、特定商取引法で「特定継続的役務提供」として規制があり、中途解約時に支払う額の上限が定められています。しかし、育毛サービスには、法的規制はありません。
このため業界団体である「日本毛髪業協会」がクーリングオフ制度や中途解約に関する自主基準を定めています。これによると、「絶対治る」といった表現や、「このままではもっと抜ける」など利用者の不安をあおるような表現があった場合、契約の取り消しができることになっています。しかしながら、日本毛髪協会に加盟していないサービス業者もあり、サービス業者と利用者とあいだで「言った」「言わない」の押し問答になるケースもあるようで、トラブルはなかなかなくなりません。
しかし、国民生活センターへの相談件数で見ると、年々少しずつ減る傾向にあり、2007年度は463件でえした。この傾向は、男性型脱毛症のメカニズムがネットで容易に検索できるようになったり、病院での治療が始まったことが背景にあると思われます。
「育毛」「発毛」という言葉の使い分けは、ひじょうにあいまいなのです。日本で購入できる薬は「薬事法」によって定められていますが、薬事法とは、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」の規制や運用についての法律です。市販の育毛剤、発毛剤には、このうち医薬品もあれば、医薬部外品もあります。
では医薬品と医薬部外品はどう違うのか。薬事法によると、医薬品は、つぎにようにに定義されています。
1.日本薬局方に収められている物
2.人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具
でないもの(医薬部外品を除く)
3.人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具で
ないもの(医薬部外品及び化粧品を除く)
医薬部外品の定義は以下の通り。
次に掲げることが目的とされており、かつ、人体に対する作用が緩和な物であって機械器具等でないもの及びこれらに準ずる物で厚生労働大臣の指定するものをいう。ただし、これらの使用目的のほかに、前項(注:医薬品の定義)第2号又は第3号に規定する用途に使用されることを併せて目的とされる物を除く。
1.吐き気その他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止
2.あせも、ただれ等の防止
3.脱毛の防止、育毛又は除毛
さて、では育毛・発毛剤に限ると、医薬品と医薬部外品では、効果がどう異なるのでしょう。薬事法によると、医薬品の効能は「壮年性脱毛や円形脱毛症における発毛、育毛及び脱毛の進行予防など」となっています。これに対して医薬部外品の効能は、「脱毛予防、発毛・育毛の促進など」。このように区分しているのは日本だけのようですが、これの何がどう違うのやら、私は何度読んでもさっぱり分かりません。
そればかりか、この両者の区分はどう考えても科学的ではありません。有効成分として、従来は血行促進作用や栄養補給、抗炎症作用などが謳われてきましたが、これらが毛包に対する直接的作用かどうかはエビデンスが乏しいのです。
市販の育毛剤や発毛剤を試して「よく効いた」と言う方もおられるでしょうが、いま現在薄毛で悩んでおられる方は、薬を選ぶ前に脱毛症外来を設けている病院で専門家に相談してみてはいかかでしょうか。