男性型脱毛症の一番新しい治療薬、フィナステリド(プロペシア)についてご説明します。この薬の出現で、男性型脱毛症の治療戦略は格段に進歩しました。
男性型脱毛症は、男性ホルモンのテストステロンが細胞内でⅡ型の5a-リダクターゼという酵素によってDHT(ジヒドロテストステロン)に変わり、これが毛乳頭細胞内で作用して起こります。
フィナステリド(プロペシア)は、Ⅱ型の5a-リダクターゼの作用を妨げる薬です。アメリカで1983年に合成され、前立腺肥大の治療薬として1992年にアメリカのFDA(食品医薬品局)に認可されました(商品名:プロスカー)。前立腺肥大にも、ジヒドロテストステロンが関係しているのです。
ある薬物が治療薬として認可されるためには、患者さんの協力を得て臨床試験が行なわれます。フィナステリド(プロペシア)も前立腺肥大の薬として臨床試験が行なわれたわけですが、その過程で男性型脱毛症の人に投与すると育毛効果が表れることが分かり、育毛剤としての研究もなされるようになったのです。
アメリカのFDAがフィナステリド(プロペシア)を男性型脱毛症の治療薬として認可したのは、1997年のことでした。前立腺肥大治療薬としてのフィナステリドは1錠につき5ミリグラムの含有量ですが、男性型脱毛症の治療薬は1錠当たり1ミリグラムの含有量です。
それまでの脱毛症治療薬はほとんどが頭に直接塗る外用薬でしたが、フィナステリド(プロペシア)は内服します。これを飲むと、テストステロンが細胞内に入ってきたところでⅡ型の5a-リダクターゼの作用を妨げ、ジヒドロテストステロンの産出を抑えるので、これによる脱毛作用もくい止めることができるわけです。
薬効作用としては非常にシンプルですが、初めに世に出た効果的な「飲む発毛剤」として、一躍世界的に注目を集めました。2007年10月現在では、世界の60カ国以上で承認されています。
日本では21世紀に入ってから臨床試験が行なわれ、2005年の10月に1ミリグラム錠と0.2ミリグラム錠を厚生労働省が認可しました。一般に育毛剤の臨床試験は、フォトトリコグラムという方法で行なわれます。頭頂部の髪の毛を1センチ四方切り、そこに生えてくる髪の毛の本数で薬の効果を確かめる方法です。
アメリカでの臨床試験は、フォトトリコグラムによる二重盲検比較試験で行なわれましたが、日本では臨床写真のみによる二重盲検比較試験が実施されました。アメリカのフォトリコグラムでは、髪を切り取った部分をはっきりさせるため点状の刺青が使われるのですが、日本人には頭部への刺青に抵抗を感じる人が多いため、臨床写真による二重盲検比較試験のみとなったのです。
二重盲検比較試験では、まず被験者をふたつのグループに分け、ひとつのグループには試験の対象となる薬、もう片方には偽の薬を与えます。フィナステリド(プロペシア)の臨床試験では、男性型脱毛症の治験協力者に無作為に3つのグループに分け、ふたつのグループにフィナステリド1ミリグラム錠か0.2ミリグラム錠を飲んでもらい、残りのグループの方々には育毛効果のない偽薬を飲んでもらったわけです。
この偽薬をプラセボ、あるいはプラシーボと言います。「プラシーボ効果」という言葉なら、多くの方がご存じではないでしょうか。個人の思い込みによる効果のことで、たとえば効力がないものを「特効薬」として与えられた場合、「絶対効くはず」と思い込んで実際に効果がでてしまうことを言います。
臨床試験を行なう際、被験者が何を与えられたか明らかにされると、効力が変化してしますことがあるので、それを明らかにしないようにする方法が盲検試験です。さらに、薬を被験者に与える側にも、自分が与えている薬が試験の対象薬か、はたまたプラセボであるかを知らずにおこなうものを二重盲検試験と呼びます。薬を与える側が、どちらを与えているか知っていると、渡すときの態度などから相手に分かってしまう恐れがあるので、慎重を期して両者ともに知らせずに行なうのが二重盲検試験というわけです。
では、我が国おけるフィナステリド(プロペシア)の臨床試験結果をお知らせしましょう。日本では24歳から50歳で、軽度あるいは中程度の男性型脱毛症の方々を被験者として、頭頂部写真評価が行なわれました。「著明改善」「中程度改善」「軽度改善」「不変」「軽度進行」「中等度進行」「著明進行」の7段階で評価したのです。
フィナステリド(プロペシア)0.2ミリグラムの錠剤を1日1錠、1年間つづけて飲んだグループでは54%、1ミリグラム錠剤での同じ試験では58%の方に「改善」が認められました。服用後1年を経ても改善効果は見られず、「不変」だった人の割合は40%、抜け毛が「進行」した人は2%でした。
一方、プラセボを1年間飲み続けたグループでは、72%が「不変」、22%が「進行」、そして6%の方が「改善」という評価がなされました。
同じ条件で行なわれたヨーロッパでの臨床試験においても、フィナステリド(プロペシア)を飲んだグループでは48%に「髪の毛がやや増加」以上の効果が見られ、プラセボを飲んだグループで同様の効果を得られたのは7%でした。
また、アメリカでの臨床試験では、男性型脱毛症の患者さんにフィナステリド(プロペシア)1ミリグラム錠を1日1回、6週間飲んでもらったところ、頭皮のジヒドロテストステロンが64%低下しました。フィナステリド(プロペシア)によって、脱毛の原因となるホルモンを減らせたわけです。
以上のことから、フィナステリド(プロペシア)の効果は人種に関係なく表れることが分かります。明らかに効果が表れるのは、投与後6ヶ月から1年ほどである点も共通しています。しかしひとつだけ、日本人に特徴的なことが発見されました。
欧米でも日本でも、フィナステリド(プロペシア)の臨床試験には1ミリグラム錠と0.2ミリグラム錠が使用されましたが、欧米の被験者にとって0.2ミリグラム錠の効果はやや低かったのに対し、日本では0.2ミリグラム錠を投与されたグループの効果が、1ミリグラム錠投与グループとほとんど変わらなかったのです。欧米人に比べて体格が小さいこと、あるいは人種的な違いによるものかもしれません。
フィナステリド(プロペシア)は2005年10月に厚生労働省の認可を得て、2ヶ月後の12月、プロペシアの商品名で販売が開始されました。その際、1ミリグラム錠に加え、欧米にはない0.2ミリグラム錠も生産されることになったのは、こうした結果を踏まえてのことです。
その後、国内で1ミリグラム錠投与による3年間の延長試験がなされました。先ほど紹介したように服用を開始して1年後には58%の患者さんに「改善」が認められましたが、これが2年後には68%、3年後には78%と、改善率は年を追うごとに10%ずつアップ。つまり3年間内服継続すると、80%近くの人に「髪の毛がやや増加」する現象が見られたのです。
実際は、飲み始めて1年ぐらいのあいだは発毛数は増えるのですが、その後の発毛数は徐々に減っていきます。ただし、外見上は1年後より2年後、2年後より3年後のほうが「髪が増えた」と見える例が多いことから、発毛数は減っても髪が伸びるスピードが速まる、または毛が太くなる現象が起きていると思われます。
またこの試験では、3年間続けて服用した患者さんの98%は、男性型脱毛症の「進行」が認められなかった、という結果もでています。海外の頭頂写真評価では、1ミリグラム錠の5年間投与で、90%の患者さんに抜け毛を抑える効果、あるいは改善効果が認められました。